2016年10月9日日曜日

電力供給の統計モデリングのお話(その1)

オペレーションズ・リサーチ学会機関紙 vol.61 no.10に,政策研究大学院大学の土谷隆先生(私の師匠の先生)との共著,
「最大電力供給の統計的解析と節電について−東日本大震災がもたらした構造変化−」 (pp.64-76)
が掲載されました.この研究は私のコアの研究のうちの1つで,博士号を取得した2012年から開始した研究です.

2年前に投稿したのですが,紆余曲折を経て,この度掲載されました.

今回はこの研究について少し説明したいと思います.ちょっと長くなるので数回に分けて載せます.

もともとの研究の切っ掛けはいうまでもなく2011年3月11日に発生した東日本大震災と福島第一原発の事故で,これらを切っ掛けに電力需給をめぐる情勢は大きく変化しました.今年の4月からは,電力小売り自由化が実現しています.この電力小売り自由化に伴って,電力需給を適切に解析して予測に繋げることも重要となっています.

また,昨今のエネルギー政策も相まって,電力需給に対する関心は高い印象を受けます.

ですが,電力需給の解析は,気温や,社会的状況など色々な要素が絡んでおり,簡単にできるものではない印象を受けます.とはいうものの,電力需給構造を解析することは今後の電力需給のあり方を議論する上では非常に重要です.

そこで,我々の研究では,最小二乗推定という簡単な統計モデリングの手法(ここがポイント)を用いて,電力需給構造を解析することを目指しました.データについても,誰でも入手できる,需給検証委員会のデータ,気象庁のデータ,Yahoo!天気のデータを用いることで,平易かつ透明性のある議論ができるようにしました.

対象としては2009年から2014年の東京電力および関西電力のデータです.これらは先に述べたように簡単にデータは手に入ります.

さて,最小二乗推定を行う場合,最大電力需給量を目的変数とするのは良いのですが,何を説明変数にするかがポイントになります.今回の論文では,「最低気温」「最高気温-最低気温」「最低電力供給」に着目しました.

気温については,「最低気温」「最高気温」「最高気温-最低気温」とした場合,このうち2変数を選んだ場合,それぞれ説明力は同等ですが,我々は,一日の最低電力供給を基準値として,一日の気温差が一定であれば大凡最低電力供給の差がそのまま反映されるというイメージでモデルを作成しました.また,気温差以外の不確定要素は最低電力供給に反映されていると考えています.

なお,モデルを作るに当たっては,7月10日〜8月31日の平日晴天時のデータを用いており,盆休を8月13日〜15日として,この期間を休日とみなして除いています.

上記のように各年ごとに得られた電力供給のモデルを,「2009年モデル」「2010年モデル」などと呼ぶことにし,ここでは,「2009年モデル」と「2010年モデル」について述べます.下の図は,2009年モデル(青三角)と2010年モデル(赤四角)による,最大電力供給の予測値(横軸)と実測値(縦軸)の関係を表しています.


  

2009年モデル,2010年モデルともに45°線上にほぼ乗っており,予測値と実測値に殆どズレがないことがわかります.

次に,2009年モデルで2010年の電力供給を予測した場合,および,2010年モデルで2009年の電力供給を予測した場合が下に図になります.プロットの見方は先程と同じです.下の図の上側は,2009年モデルで2010年の電力供給を予測した場合,下側は,2010年モデルで2009年の電力供給を予測した場合になります.


図を見ると,2009年モデルで2010年の最大電力供給が予測でき,また,2010年モデルで2009年の最大電力供給が予測できていることになります.(45°線にほぼ乗っていることからわかります)

実はこれは結構面白い話で,2009年は冷夏,2010年は酷暑と,非常に気候条件が異なっています.普通であれば,「冷夏である2009年モデル」で「酷暑の2010年の最大電力供給」を推定することは難しい印象です.ですが,この結果では,2009年モデルによって2010年の最大電力供給も説明でき,また,2010年モデルによって2009年の最大電力供給も説明できている,ということが説明できます.

続きはその2で記載します.

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